第8話:恐怖の一夜
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イラスト:わたなべふみこ |
ツピちゃん達の悩みは、落ち着いたねぐらを見つけることでした。 最初に決めた場所は、既に先住のシジュウカラがいました。 そのシジュウカラに、「集団では、行動するけど、寝る場所は、 別々にするものだ。」といわれてしまいましたが、一晩だけという 約束で泊めてもらいました。 次の日に見つけた場所では、寝ているところに、蛇がやってきたので、 三羽はあわてて逃げました。 それから、フクロウの声がやけに聞こえる場所だったり、 おしゃべりなスズメがうるさかったりで、今ひとつでした。 今、ねぐらにしている場所も、好奇心おおせいな双子のリスに じろじろ見られて落ち着きません。 昼間、食事を探しに遠出した3羽は、初めての場所ではしゃいでしまい 気がついたら夕方になってしまいました。双子のリスがいる ねぐらに戻るには、遠すぎました。 ちょっと困っているところ、静かな林を見つけました。 静かすぎるほど静かなところで、外敵となるような動物もいなさそうでした。 「今晩は、ここで、寝ようか。」 「そうしよう」 ということで、ツピちゃんたちは、林に入りました。 入ってみると、なんとなく異様な雰囲気がしました。 「なんか、ここ、怖い。」末っ子の弟が不安そうにいいました。 「そうだね。お兄ちゃん、他の場所を探そうよ。」上の弟もいいました。 ツピちゃんもそうしようと思ったところ、目の前の田んぼの上にある 電線にカラスが十羽ほど止まっていました。 「カラスだ。気をつけて出て行かないと。見つかったら、襲われる。」 ツピちゃんは、緊張している弟達にいいました。 「タイミングを見計らって、ここから出て行こう。」 そうしているうちに、またカラスの数が増えました。 彼らは、カァーカァーいいながら、林の方を見ていました。 「どうしよう。僕達に気がついたのかな。」 「僕達が飛び出してくるのを待っているんだ。」 「違うと思うけど...でも、用心した方がいいな。」 それから、三十羽ぐらい、またカラスが来ると、最初に電線に止まっていた グループが、林に入ってきました。 ツピちゃんたちは、背筋が凍りましたが、カラスは、もっと上の方を 目指していました。 カラス達は、丈夫そうな枝に1羽が止まると同じ枝に五羽ぐらい 止まりました。それを合図にしたのか、続けて次の集団も林に入って きました。それぞれが、お気に入りの場所を確保しようと 争ったりしています。そして、あまりにも、一つの枝にたくさん止まったので、 枝がしなってはねかえったりしました。そんなことをギャーギャーいいながら 繰り返していました。 そんなこんなで、カラス達が落ち着くまで、相当な時間がかかりました。 もしかしたら、寝場所を決めるのに大騒ぎしている今こそ、 ツピちゃんたちが逃げ出すいいタイミングだったのかもしれません。 しかし、ツピちゃん達は、カラスたちのあまりのうるささに 足がすくんで、震えていました。 やがて、日が落ちて、カラス達も寝始め、静かになりました。 ツピちゃん達は、カラス達が目の届かない下の方にいましたが、 暗くなってきたので、飛ぶわけにもいかず、今夜は、この場所に とどまることになってしまいました。 長い夜が始まりました。でも、とても眠れる状態ではありません。 グーグー、ギュギュ、グワァグワァといったカラス達の声が 聞こえます。ツピちゃん達は、声を出したら、気がつかれると 思って、泣きたいところをひたすら耐えていました。 ツピちゃんは、いろんな想像をしてしまいました。 ねぼけたカラスが、下に降りてきてツピちゃんを見つけて あの大きなくちばしでパクッと... 月が雲に隠れているから、外に出たとたん、雲が晴れて 月明かりに照らされて、カラス達に見つかり... それは、眠っていないのに、悪夢を見ているようでした。 東の空が、やっと明るくなってきました。早起きのカラスたちは、 少しずつ、飛び立っていきました。 太陽が完全に姿を現したころには、カラスたちは、いなくなり、 林は元の静けさを戻しました。 ツピちゃん達もやっと生きたここちがしました。 ここの林が静かで誰もいないわけは、カラスのねどこだったからです。 ツピちゃんは、あまりにも静かなところは、かえって危険なのだと 思いました。双子のリスにじろじろ見られているほうが、安全なのだと。 まともに寝ていなかった3羽でしたが、とにかく、なじみの場所に 戻りたくて、急いで、この場所を飛び立ちました。 |